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霧谷村事件簿 ~隠蔽された過去と未来への軌跡~

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目次

はじめに

この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。
お手すきの時に気楽にお付き合いを頂けたらと思います。

本物語について、ずんだもんの読み聞かせ動画をアップしていますので、是非、楽しんでいってください!

本編

プロローグ

昭和25年、東北地方の山深く隠された霧谷村は、外界から隔絶されたかのように静かな日々を送っていた。
この村は、その名が示す通り、年の大半を厚い霧に覆われており、古い風習や迷信が色濃く残る場所だった。
ある冬の夜、村をさらに神秘的な雰囲気で包む濃い霧の中、この村の名家である中島家では待ちに待った新しい命の誕生が迫っていた。
中島家の主・敏郎は手を握りしめ、緊張した面持ちで外を見つめていた。
妻・順子の苦しみ声が、時折、家の静けさを破っていた。
「大丈夫か、順子?」敏郎は妻の手を握りながら、心配そうに尋ねた。
「うん…」順子の返事は弱々しくも、どこか希望に満ちていた。
その時、部屋にいたのは中島夫妻と村の産婦人科医の佐々木絵里だけだった。
やがて、新しい命の泣き声が部屋に響き渡る。
しかし、その直後、さらに別の小さな泣き声が続いた。
「おめでとうございます。ふたりの…」佐々木医師の声が震えていた。
「ふたり?」敏郎が驚きと共に尋ねる。
「はい、双子です。一人は…」佐々木医師は言葉を濁し、深刻な表情を浮かべた。
この瞬間、中島夫妻の喜びは複雑な感情へと変わり、ある秘密が生まれた。
霧谷村の古い迷信が、この幸せな瞬間を影から覗いているかのようだった。
この晩から始まる物語は、霧に覆われた村の静けさの中に隠された秘密と、時を超えて繋がる運命の糸を辿る旅である。
中島家に誕生した子供たちの運命は、やがて霧のように複雑に絡み合い、未知の真実へと導くことになる。
そして、この夜の出来事は、霧谷村の過去と未来を永遠に変える第一歩となった。
静かな幕開けの中で、霧に包まれた村の物語が始まるのだった。

第一部

隠された部屋

霧谷村の深い霧の中、中島家には誰もが知らない秘密が隠されていた。
家の奥深く、普段は誰の目にも触れることのない部屋が存在している。
この部屋の存在は、中島敏郎と順子だけが知る秘密だった。
ある日、娘の雪子が偶然にもその部屋に気づき扉に手をかけた時、敏郎は慌てて彼女を止めた。
「雪子、そこには入らないでくれ。大事な物を保管してあるんだ。」彼の声には珍しいほどの真剣さがこもっていた。
雪子は父の言葉を素直に聞き入れ、その部屋には二度と近づこうとしなかった。
しかし、その禁じられた部屋に対する好奇心は、雪子の心の奥底に静かに残り続けた。
部屋の扉から漏れる微かな光や、時折聞こえるかのような小さな音。
これらすべてが雪子の想像力をかき立て、彼女を不思議な夢へと誘った。
隠された部屋は、家族の中でも特に敏郎が厳重に守る場所であり、彼は頻繁にその部屋に入り、何時間も中で過ごしていた。順子もまた、その部屋の存在を認識しながらも、決してその中身について語ろうとはしなかった。
雪子の15歳の誕生日が近づく頃、佐々木医師と道端で話をしているとき、佐々木医師が雪子に向かってぽつりと言った。
「雪子ちゃん、この世には、大切な人を守るために隠されていることがたくさんあるのよ。」
佐々木医師の言葉は謎めいていたが、雪子にはなぜか心に響いた。
その夜、雪子は夢の中でその禁じられた部屋を訪れる。
部屋の中には美しい光が満ち、そして何かが彼女を突き刺すような哀しい感覚があった。
目覚めた時、雪子はその夢の意味を理解しようとしたが、その答えはいつも手の届かないところにあるように感じられた。

不穏な朝

ある日の朝、中島家では、表面上は平穏が保たれているように見えたが、家の中では言葉にできない重い空気が流れていた。
敏郎と順子は深刻な表情で居間に座り、ほとんど会話を交わさずに朝食をとっていた。
その沈黙を破るかのように、階段を下りてくる足音が聞こえた。
「おはよう、お父さん、お母さん。」と、雪子が現れる。
敏郎は彼女を見つめ、やさしく微笑んで話しかけた。
「おはよう、雪子。今日も元気に学校へ行くんだね。」
順子もまた、雪子に向かって「今日も一日頑張りなさいね。」と優しく励ました。
雪子は「はい!」と明るく答えた。
雪子は、いつも通り登校し、いつも通りの学校生活を過ごしていた。
しかし、幼馴染の高橋健太と佐伯拓也は、彼女に対して以前とは少し異なる何かを感じ取っていた。
「雪子、どうしたの?なんだか元気ないよね?」と健太が尋ねても、雪子は「大丈夫、ちょっと疲れただけだよ。」と笑顔で答える。
彼女の反応はいつもの雪子らしさを保っていたが、その微妙な違和感を健太と拓也は感じながらもそれ以上の追求はしなかった。
この出来事は、時間の経過とともに健太と拓也の記憶から薄れていくのであった。

第二部

不思議な引き寄せ

昭和60年の東京の静かな朝、20歳の小松琴音は目を覚ました。
彼女はこの東京で生まれ育ち、普通の生活を送ってきたが、最近になって不思議な夢を見るようになった。
夢の中では、自分が別の場所で別の生活をしているような、どこか懐かしい感覚に包まれる。
それは、具体的な記憶というよりは、感情や雰囲気に満ちたものだった。
ある日、琴音は父、小松淳平の書斎で偶然にも古い写真を見つける。
それは霧に包まれた美しい村の風景を捉えたもので、見たこともないはずのその写真に、なぜか強く引き寄せられる感覚を覚えた。
「これはどこ?」と琴音が尋ねると、淳平は「霧谷村だよ。お前が生まれる前に、俺が訪れたことがある場所さ。」と答えた。
その夜から、琴音は霧谷村の夢をより頻繁に見るようになった。
夢の中で彼女は、村の人々と交流し、自然の中で過ごす。
しかし、夢はいつもぼんやりとしており、夢の内容は、はっきりとはわからなかった。
これらの夢と写真からの不思議な引き寄せに心を動かされ、琴音は霧谷村への一人旅を決意する。
淳平は当初、娘の一人旅に戸惑いながらも、最終的にはその決意を尊重する。
「霧谷村へ行って、何か見つけてこい。ただし、無理はするなよ。」と淳平は言った。
琴音の霧谷村への旅は、ただの興味本位や冒険ではなかった。
それは、彼女自身も理解していない深い引き寄せに従う、自己探求の旅だった。

いざ、霧谷村へ

小松琴音の霧谷村への一人旅は、春の暖かな日差しの中で始まった。
彼女が列車から降り立った時、目の前に広がる豊かな緑と、懐かしさを感じさせる風景に、心が奇妙に動かされた。
この村に来たのは生まれて初めてのはずなのに、足を踏み入れた瞬間から、どこかで見たことがあるような、不思議な感覚に包まれた。
村の入口で、琴音は深呼吸をした。
冷たく澄んだ空気が肺を満たし、心がすっと軽くなるのを感じた。
彼女は、この旅がただの偶然ではなく、何か特別な意味を持っていることを、直感的に感じ取っていた。
村を歩き始めると、古い木造の家々、石畳の小道、そしてどこまでも続く緑豊かな風景が、琴音の心を引きつけた。
彼女は、まるで長い間離れていた家に帰ってきたような感覚を覚えた。
途中、彼女は村の小さな喫茶店で休憩を取ることにした。
店内には温かい光が差し込み、静かな時間が流れていた。
その時、店の扉が開き、健太と拓也が入ってきた。
彼らは大声で笑いながら、思い出話に花を咲かせていた。
二人の自然な笑顔と明るい雰囲気に、琴音は思わず微笑んでしまった。
彼女はこれまで二人と会ったことはなかったが、なぜか懐かしい感覚を覚えた。
健太と拓也は琴音の視線に気づき、彼女に向かって挨拶をした。
「こんにちは、旅行の方ですか?」健太が気さくに声をかけると、琴音は「はい、ちょっとこの村に興味があって。」と答えた。
その自然な会話の流れの中で、三人はすぐに打ち解け、喫茶店の一角で楽しく話し込むことになった。
健太と拓也は霧谷村での生活や、村の魅力について琴音に熱く語った。
彼らの話からは、この地に対する深い愛情が伝わってきた。
「霧谷村は小さいけど、本当にいいところなんだ。君も気に入ってくれると嬉しいな」と拓也が言うと、琴音は心から「はい、もうすでに大好きになりました」と答えた。
三人は連絡先を交換し、明日、健太と拓也が霧谷村の名所を案内する約束を交わした。
琴音が喫茶店を後にする時、健太と拓也は「それじゃあ、また明日ね。」と温かく見送ってくれた。
琴音はこの日の出会いを心の底から嬉しく思いながら、予約していた宿へと向かった。

運命の出会い

翌日、琴音は約束通り、健太と拓也に霧谷村を案内してもらうことになった。
朝早くから二人は彼女を迎えに来て、村の隠れた名所や美しい自然のスポットを丁寧に案内してくれた。
彼らの案内のおかげで、琴音は霧谷村の魅力をより深く知ることができ、訪れる場所ごとに新たな発見と感動を経験した。
昼過ぎ、三人は村の中心部にある小さな広場で休憩をとることにした。
そこで、琴音は運命の人物と出会った。
それは、村で人気のある雑貨店を経営している女性、雪子だった。
幼馴染の健太と拓也に気づいた雪子が近づいてきた。
「こんにちは、初めまして。雪子です。」と彼女は琴音へ自己紹介した。
健太と拓也は「こちらは一人旅をしている琴音さん、今日は彼女に村を案内しているんだ。」と説明した。
雪子と琴音は初対面にも関わらず、すぐに打ち解け、意気投合した。
雪子の温かい人柄と、彼女が話す霧谷村の小話に、琴音はすっかり魅了された。
雪子は琴音に自身の店を案内し、村の伝統や文化について興味深い話をたくさんしてくれた。
その後、雪子は思い切って琴音へ提案した。「もしよければ、私の家に泊まっていかない?霧谷村をもっと楽しんでほしいの。」と。
琴音は少し驚いたが、その温かい招待に心から感謝し、快く快諾した。
彼女にとって、地元の人々との交流はこの旅の貴重な経験であり、雪子の提案はとても嬉しいものだった。
一方、中島家では、突然の訪問者に対する対応について、何かと心配する様子が見られた。
敏郎と順子が何かを慎重に隠しているかのようにも見えたが、琴音は敏郎と順子から温かな歓迎を受けた。
琴音は、家の中に足を踏み入れると、なぜか懐かしい感覚に包まれ、心が安らいだ。
夕食の席では、琴音と中島家の家族は様々な話題で盛り上がっていた。
琴音は、霧谷村での楽しい時間を満喫していた。

第三部

古い文書と隠された真実

琴音は中島家に温かく迎えられ、家族との絆を深めていった。
彼女は、この家と村の美しい風景に心からの安らぎを感じていた。
ある日の午後、家族が畑仕事で外出しているときに、琴音が家の奥にある廊下を歩いていると、普段は閉ざされているはずの一つの扉がわずかに開いているのを見つけた。
好奇心に駆られ、琴音はそっとその扉を押して中を覗いてみることにした。
部屋の中は薄暗く、数年の時を経たかのような静けさが漂っていた。
部屋の中央には、古い木製の机が置かれ、その上にはいくつかの写真が散らばっていた。
琴音は、写真に写る人々の幸せそうな表情に不思議な懐かしさを感じていた。
これらは、中島家の大切な記憶の一部であることが感じられた。
琴音が、ふと部屋の隅に目をやると、壁に掛けられた古い時計が目に入った。
その時計の下には、小さな鍵がかかった引き出しがあることに気づいた。
その引き出しに強く惹かれる感覚を覚えた琴音は、鍵を探し始めた。
数分後、彼女は机の引き出しの奥で、小さな鍵を見つけることができた。
手に汗を握りながら、琴音はその鍵で引き出しを開けた。
中から見つかったのは、中島家に関する古い文書だった。
文書を丁寧に広げると、琴音の目に飛び込んできたのは、35年前のある出来事についての記録だった。
文書によれば、その時、中島家では双子が生まれていた。
しかし、双子の妹の存在が隠されていたことが綴られていた。
文書の中には、双子の一人が公にされ、もう一人が秘密裏に育てられたという衝撃的な事実が記されており、その子供たちの出生の日時と雪子と秋子という名前が記載されていた。
琴音は、この文書の内容に強い関心を持つと同時に底知れぬ胸騒ぎを感じるのであった。

断片的な手がかり

琴音が中島家の秘密の部屋で発見した古い文書から、35年前に双子が生まれ、その一人の存在が隠されていたという衝撃的な事実を知った。
しかし、彼女の中には新たな疑問が湧き上がってきた。
なぜ、双子の一人を秘密裏に育てる必要があったのかと。
翌日、彼女は村を散策しながら、雪子との会話で聞いた場所や人々を訪ねた。
その中で、琴音は村の古老である菊池静江に出会い、彼女から村の歴史や古い迷信について話を聞く機会を得た。
静江は、霧谷村では古くから双子を不吉な存在と見なす迷信があったことを知る。
静江の話から、琴音は中島家の双子にまつわる秘密が、村全体の歴史や迷信と深く結びついていることを感じ取った。
「35年前にこの村で双子が生まれたという話はありますか。」と琴音は静江に質問した。
静江は、琴音の質問に「そんな話は聞いたことがないわ。」と答える。
このことから、琴音は35年前に中島家で双子が生まれたことは、村人には隠されていると悟った。
琴音は中島家の出産に立ち会った可能性が高い人物、産婦人科医の佐々木絵里に焦点を当てることにした。
佐々木医師ならば、35年前の出産に関する詳細を知っているかもしれないと考えたのだ。
琴音は、佐々木医師の診療所を訪ねてみることに決めた。
診療所を訪れた琴音は、佐々木医師に会うことができた。
佐々木医師は最初、琴音の訪問の理由に少し戸惑いを見せたが、話が弾むにつれて、つい口を滑らせてしまう。
「ここだけの話にしてくださいね。」と前置きした佐々木医師は、35年前のある出来事について静かに語り始めた。
彼女は、中島家に双子が生まれたこと、そしてそのうちの一人、秋子が出産直後に里子に出されたという事実を明かした。
佐々木医師によると、中島夫妻はこの事実を非常に慎重に扱い、他の村の住人には隠していることを明かした。
しかし、琴音は秋子が秘密裏に中島家で育てられていた事実を知っていた。
佐々木医師は、中島夫妻から教えられた秋子を里子に出したという話が嘘であったことに気づいていなかった。
琴音は、現在の秋子の消息が気になっていた。

蘇る前世の記憶

ある日、琴音は雪子に霧谷村の隠れた名所を案内してもらっていた。
彼女たちは村の美しい風景を楽しみながら、和やかな会話を交わしていた。
しかし、二人が森の井戸を通りかかった時、琴音の足が突然重くなり、心臓の鼓動が速くなった。
彼女の心に、突如として強烈な感覚が蘇り、目の前が一瞬真っ暗になったように感じた。
その瞬間、琴音は、過去の記憶に引きずり込まれた。
彼女の心の奥底から、前世の最後の瞬間、雪子として生きていた時の殺された記憶が鮮明に蘇る。
記憶の中で、琴音は自分を襲う人物の顔をはっきりと見ていた。
その犯人が、今まさに目の前にいる『雪子』であることを思い出す。
この瞬間、目の前の『雪子』の正体が何者なのかという真実を、琴音は悟ることになる。
この衝撃的な真実に直面し、琴音の心は混乱と恐怖でいっぱいになった。
彼女は深呼吸をし、自分の感情を抑え込むと、何もなかったかのように振る舞う決心をした。
「大丈夫?ここ、何か思い出した?」雪子が琴音の顔を見て心配そうに尋ねる。
琴音は、雪子のこの質問に強い恐怖を感じながらも、「あ、うん。ちょっと考え事をしていただけだよ。」と答えた。
その声には、わずかな震えが含まれていたが、雪子はそれ以上深く追及することなく、話題を変えてくれた。
しかし、雪子の『何か思い出した?』という何気ない質問に琴音はある確信を得ていた。

第四部

真実へ迫る足音

ある日の夕暮れが迫る中、琴音は霧谷村の静寂を破るように、森の井戸へと足を進めた。
この場所は、以前、雪子と訪れた時に琴音が前世の記憶を思い出した場所である。
彼女を導くのは、雪子の遺体がどこにあるのかという深い疑問と、その答えを見つけ出すための決意だった。
森は厚い霧に包まれ、視界は次第に狭まっていった。
足元は不安定で、落ち葉が敷き詰められた地面は滑りやすく、彼女は何度も足を取られそうになった。
琴音の心は、恐怖と期待で高鳴っていた。
彼女は、この森の井戸が何か重大な秘密を隠していることを感じ取っていた。
その直感は彼女を古い井戸へと導いた。
井戸は森の中でひっそりと佇んでおり、周囲には厳かな静寂が漂っていた。
井戸に近づくと、琴音は心臓の鼓動を耳にするほどの静けさの中、何かが異なる空気を感じ取った。
彼女は、井戸の周りを慎重に調べ始めた。
その時、ふとした動きで地面の一部が崩れ、彼女は思わず膝をついた。
そして、その瞬間、地面から白い何かが現れた。
最初は何なのか理解できなかった琴音だったが、すぐにそれが骨であることを悟った。
恐怖を感じながらも彼女はさらに地面を掘り返し、やがて一つの遺体が現れた。
長い時間が経過したために、遺体はほとんどが白骨化していたが、琴音は直感的に、これが『雪子』のものであることを感じ取った。
琴音は、井戸のそばで静かに祈り、『雪子』の魂が平和を見つけることを願った。
この時、その光景を木陰から見つめる女性がいることを琴音はまだ気づいていなかった。

悲しい真実

琴音が静かに雪子の遺体に祈りを捧げていたその時、森の影から秋子が現れた。
彼女の目には、長年隠し続けた秘密の重みが宿っていた。
秋子はゆっくりと琴音のもとに歩み寄り、彼女の前で立ち止まった。
琴音は、一瞬、身構えたが、秋子の様子を見て冷静を装った。
深いため息をつきながら、秋子はついに心の奥底に封じ込めていた真実を語り始めた。
「やっぱり、『雪子』のことを探っていたのね。薄々は勘づいていたわ。『雪子』を殺したのは私…」と秋子は静かに口を開いた。
琴音は静かに秋子の続く言葉に耳を傾けた。
秋子は続けた。「ずっと『雪子』の陰で生きてきた。彼女がどれだけ幸せに暮らしているかを見るたび、私の心は嫉妬で満たされた。『雪子』になりたい。その想いが日に日に強くなっていった。そして、ある日、その衝動が抑えられなくなり、私は『雪子』を…」秋子の声は震え、彼女の目からは涙がこぼれ落ちた。
琴音は衝撃を受けながらも、秋子の話に耳を傾け続けた。
秋子は、事件後、敏郎と順子が彼女に手を貸し、一緒に雪子の遺体を井戸まで運び、こっそりと埋めたことを明かした。
そして、中島家の地位を守るため、秋子が『雪子』になりすまして生きることで事件を隠蔽する道を選んだ。
この告白は、琴音にとって想像を絶するものだった。
しかし、秋子の話を聞くうちに、彼女に対する怒りよりも、深い悲しみと同情が心を満たしていった。
秋子の告白は終わり、二人は井戸のそばで長い沈黙に包まれた。
琴音は、深呼吸をし、秋子を見つめ直した。「『雪子』さんのためにも、私たちはこの真実を正しく扱い、彼女の魂が安らげるようにしなければ。」と琴音は静かに言った。
秋子は、静かに頷くのであった。
秋子は、『雪子』と琴音の関係について、何かを確信するかのように清々しい表情をしていた。

決意の夜

その日の深夜、中島家の居間では、秋子が敏郎、順子、そして琴音の前で重大な決断を告げていた。
「私は警察に行き、全てを話すことにしました。『雪子』のこと、そしてその後に私たちがしたことも…」彼女の声には決意が込められていたが、同時に不安も隠せない様子だった。
敏郎と順子は息をのみ、しかし、秋子の言葉を受け入れた。
長年共に秘密を抱え、その重さに耐えてきた彼らにとって、秋子の決断は苦渋に満ちていたが、必要な一歩だと理解していた。
順子が涙を流しながら秋子に近づき、彼女を強く抱きしめると、敏郎もそっと二人のそばに寄り、家族の絆を確認するように彼女たちを見守った。
琴音はこの場に居合わせ、秋子の告白と家族の反応を静かに見つめていた。
彼女自身もこの一連の出来事を通じて、中島家の深い絆と複雑な感情を目の当たりにしていた。
秋子の勇気ある決断に対し、琴音は内心深い敬意を感じていた。
「秋子さん、あなたの勇気が、この家族にとっても、『雪子』さんにとっても、新しい始まりをもたらすと信じています。」と琴音は静かに言葉をかけた。
彼女の言葉には、秋子への支援と、家族の苦悩に対する理解が込められていた。
秋子は琴音の言葉に心から感謝し、敏郎と順子もまた、琴音の存在がこの困難な時に彼ら家族にとってどれほどの支えになっているかを実感していた。
この夜、中島家では、秋子の決断を通じて、家族が新たな一歩を踏み出す覚悟を共にしていた。
秋子の告白と決意は、彼女自身だけでなく、敏郎、順子、そして琴音にとっても、過去の悲しみを乗り越え、前に進むための大切な瞬間となった。
この夜は、中島家にとって重要な節目となり、彼らの未来に新たな希望の光を灯した。
そして、琴音も『雪子』としての前世の記憶を封印し、琴音として新たな人生を歩んでいくことを誓う。

未来への小さな一歩

秋子の告白と自首は、霧谷村に大きな変化をもたらした。
彼女が警察に真実を語ったことで、事件は公になり、法の手続きが進められることになった。
秋子だけでなく、敏郎と順子もまた、過去の行動に対する責任を問われることになった。
彼らの逮捕は、霧谷村だけに留まらず、霧谷村の枠を超えて、全国的に注目を集める大きなニュースとなった。
メディアはこの衝撃的な事件をこぞって報じ、古い迷信と家族の秘密が引き起こした悲劇が、日本中の人々の心を揺るがせた。
新聞、テレビのニュースでは、長年にわたる秘密の重みと、その秘密がもたらした結果について特集が組まれた。
特に、秋子が『雪子』として生き、そして『雪子』の死についての真実を隠し続けてきた背景には、多くの人々が深い関心を寄せた。
この事件は、迷信が現代社会に与える影響や、家族内の葛藤、そして社会的な偏見について、国民的な議論を巻き起こした。
この全国的な注目は、霧谷村にも大きな変化をもたらした。
村は、事件を通じて得た教訓を生かし、より開かれたコミュニティを目指すきっかけとした。
村人たちは、メディアの報道を通じて、外部の世界とのつながりを強め、村のイメージを新たに構築していく努力を始めた。琴音もまた、この一連の出来事を通じて成長した。
彼女は、個人の行動が周囲に与える影響の大きさを理解し、秋子とその家族への深い共感と理解を持つようになった。
また、彼女は霧谷村の変化を見守り続け、村の再生と発展に貢献することを決意した。
最終的に、秋子、敏郎、順子が法的な責任を負うことになったが、この試練は、霧谷村にとって新たな始まりを意味していた。
彼らの逮捕は、村の歴史の一ページとして記録され、未来に向けての教訓となった。
霧谷村は、この悲劇を乗り越え、より明るい未来へと歩みを進めていく。

エピローグ

霧谷村の事件が公になってから数年後、霧谷村は一つの奇跡を迎えていた。
かつての悲劇の舞台が、今や世界中から訪れる人々で賑わう聖地となり、村は前例のない発展を遂げていた。
その変化の中心には、琴音がいた。
事件が公になった後、琴音は自身の経験と霧谷村の物語を基に、ミステリアスな恋愛物語を描く漫画家となった。
彼女の作品は、読者の心を捉え、やがてアニメ化されることになる。
そのアニメは国内外で瞬く間に大ヒットし、霧谷村の名は世界に知れ渡ることとなった。
アニメの舞台となった霧谷村は、ファンたちの聖地巡礼の地として注目されるようになり、多くの観光客が訪れるようになった。
村の風景、古い井戸、そして中島家の家が物語の舞台となったことで、村は新たな息吹を得て、多くの人々に愛される観光地へと変貌を遂げた。
このすべてが、琴音の創造した物語と彼女自身の経験から生まれた。
しかし、琴音は自らの前世の記憶を、心の奥深くに封印した。
『雪子』としての記憶は、彼女の創作活動の源泉となりつつも、琴音はそれを自分だけのものとして大切にしまった。
霧谷村の物語は、霧谷村にとっても、琴音自身にとっても、新たな始まりを意味していた。
過去の悲劇が、世界中の人々に希望と愛を伝える物語へと生まれ変わったのだ。
琴音は、自分の作品がもたらした影響を見つめながら、霧谷村と共に歩んでいく未来に、静かな期待を寄せていた。
こうして、霧谷村の物語は、悲しみを超えた場所で新たな章を迎え、琴音はその一部として、自らの創作を通じて多くの人々に影響を与え続けることとなった。
過去と現在、そして未来が交差する霧谷村は、物語の力を改めて世界に示したのであった。

おわりに

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